メキシコノート
死者の日
Capula, Michoacan, Mexico, 2001
メキシコでは10月31日から11月2日は、死者の日である。日本でいうお盆のようなもので、死者がこちらの世界に帰ってくる日。31日の夜から1日にかけて子どもの死者が帰ってくる。そして入れ替わるように1日から2日にかけて大人の死者が帰ってくるという。その間、家のなかに祭壇をつくったり、飾りたてたお墓で夜を過ごしたり、仮面をかぶって踊って練り歩いたり、お盆のときの死者の迎え方が日本各地で少しずつ違うように、死者の日もメキシコ各地でそれぞれである。死者が帰ってくる時間も地域によって微妙に異なるようだ。この時期になると、都市部ではガイコツの人形や砂糖菓子などがたくさん出回り、人が集まるところにはガイコツをあしらった祭壇がつくられる。日本でガイコツ祭りといわれることもある所以だ。
メキシコ中西部のミチョアカン州は、観光に力を入れ、ことに死者の日を目玉とした甲斐あって、国内はもとより外国からもたくさんの観光客が集まる。なかでもパツクアロ湖に浮かぶハニツィオ島と、湖畔の小さな町ツィンツンツァンの死者の日は有名だ。死者の日に欠かせないマリーゴールドの花やロウソクでお墓を飾り、ひと晩じゅうそこで死者と過ごす。それぞれのお墓でこういう風だから、墓地全体では幻想的で美しい光景になる。
2001年10月31日の夜、パツクアロ湖に程近い先住民プレペチャ族の村クアナーホを訪れた。ここでの死者の日は、その年に亡くなった人がいる家が立派な祭壇をつくり、人々を招くという。招かれたこの日は31日だから、帰ってくる死者は子どもである。その家はとうもろこし畑のなかの一軒家。真っ暗闇の畑を、30人ほどの人々と、なぜかついてきた3匹の犬たちの列に連なり、死者の家に向かう。まったくの暗闇で、目の前のもののかたちすらわからない。小川があれば「水!」、牛がいれば「牛!」と、列の先頭の人から順に叫んで教えてくれるものの、月の明かりとはなんとありがたいものだろう、と思った。月がかくれて暗闇が続くと、だれがいっしょに歩いているかもわからなくなり、まるで帰ってくる子どもの死者といっしょに家へ向かっているような気がしてくる。でも不思議と怖くはない、道連れがいると思うと心強く、守られているようなあたたかな気分だった。暗闇を小一時間も歩いたころ、ようやくたどり着いた死者の家には、大きな祭壇がしつらえられていた。祭壇となるテーブルの上にマリーゴールドと果物などが置かれ、その上には枝がアーチ状にわたされて、人のかたちをした死者のパンがたくさんぶら下げられている。テーブルの下には、招かれた人々が持ち寄った、食べ物や花でいっぱいのかごがいくつも供えられている。その横には、マリーゴールドで飾られた素朴な木馬が数頭。ガイコツは、ない。祭壇の前にみんなで座り、歌を歌い、祈り、酒を飲み、食べる。タバコがまわってくると、十字をきっていただく。さとうきびの蒸留酒チャランダを燗したものもいただく。特別な日だから、嗜む嗜まないにかかわらずみんないただきなさいと教わった。いつ終わるともなく、延々と続く祈りや歌。しんみりとしているわけではないけれど、騒々しいわけではない。陽気な感じではないけれど、悲しそうでもない。儀式ばった感じはまったくしない、心からの祈りを捧げ、ごく自然に死者と過ごす夜、そんな印象だった。
次の日、素朴なやきもので有名なカプーラ村を訪れたら、陶器市場の片隅に死者の日の祭壇がつくられていた。この祭壇はこぢんまりとはしているが、ガイコツをあしらった典型的なものだ。ガイコツの貴婦人カトリーナの絵皿や陶人形が供えられているのがカプーラらしい。ほかにもそこここにしつらえられた祭壇を見てまわり、夜になってツィンツンツァンやイウァツィオ村、ツルムータロ村などの墓地を訪れた。暗い暗い闇のなかに、遠くから見てもあそこが墓地だとわかるくらいに、ぽわんとロウソクの明かりが見える。ずらりと並ぶ観光バスで乗りつけた人々にならって、墓地内に入る。テレビ局も来ている。が、なんだかここにいては申し訳ないような心持ちがしてきて、早々に引き上げて遠まきにロウソクの明かりを見つめた。
街中にあふれるガイコツも、派手な仮面の踊りも、厳かな墓地も、田舎の伝統的なガイコツなしの祭壇も、どれもメキシコの死者の日にちがいない。でも今、死者の日といって思い出すのは、クアナーホの畑の暗闇を子どもの死者といっしょに歩いた、あの気配だ。もしかすると、あの日あの畑で、ほんとうの死者の日を体験したのかもしれない。
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