LABRAVA

メキシコノート 0010

フォークアート美術館

メキシカン フォークアート ミュージアム
Mexico D.F., Mexico, 2011

メキシコシティの中心部にある都会のオアシス、アラメダ公園の、ファレス大通りをはさんだ南側に、2003年にどかんとホテル・シェラトン・セントロ・イストリコが建った。まさに「どかん」という感じのタワーである。そのシェラトンの大きな大きな建物の裏に、2006年2月にひっそりとフォークアート美術館 Museo de Arte Popular がオープンした。フォークアート好きにはたまらないところなのだけれど、なぜか観光ガイドブックにはあまり大きく紹介されていないので「ひっそり」なのである。以前あった国立フォークアート美術館は、ファレス大通りに面したシェラトンの並びの一等地に位置するコルプス・クリスティ寺院の修道院だった建物を利用していた。長い間閉鎖されていたこの建物は、1985年のメキシコ地震で廃墟のようになっていたこの区画が、リカルド・レゴレッタとその息子ビクトル・レゴレッタの設計によって大規模な複合施設コンフント・ファレスに生まれ変わったことで、そのなかの一部として修復された。が、国立フォークアート美術館はそこに復活することなく裏のインデペンデンシア通りに押しやられ、なぜか名称から「国立」がとれてフォークアート美術館としてオープン。そんなところも「ひっそり」というイメージだ。

とはいえ引っ越し先は立派である。1928年に警察署と消防署として建てられたアールデコ調の建物を大改修したものだ。シンボル的なてっぺんの塔とおおかたのフォルムはそのままながら、白い壁とガラスのシンプルな内装で、すっかりモダンなイメージの建物に変身している。改修中この近辺を通るたびに、工事中の建物のそばがそうであるのは常なることではあるけれど、なんとなく暗くてほこりっぽくていったいなにが建つんだと、訝ったものだった。が、こんなに立派なうれしい美術館ができたと気づいて、ここの前でずいぶんとたくさんしかめ面をしたことを申し訳なく思った。

インデペンデンシア通りに面した入り口からカフェとミュージアムショップの間を抜けると中庭に出て、パッと明るくなる。正面にしつらえた3メートルあまりの高さの大きな生命の樹が華やかに訪れるものを迎えてくれる。有名なやきものの町メテペックでつくられたものだ。

この美術館には、メキシコ各地のフォークアートの粋も技も匠もおさめられている。これがメキシコのフォークアートのすべてか、といえばそうではない。けれど、相当きちんと集められているので、ほんとうに見応えがある。ガイコツだけのコーナーがあったり、ミニチュアだけを集めたり、ガラス越しではなく直接作品を見せたり、中庭をぐるりと囲む4階建ての建物に趣向をこらして作品が紹介されている。各階の回廊には名人150組を集めた重本『グレイト マスターズ・オブ・メキシカン フォークアート』に紹介されている巨匠たちの作品の実物が並ぶ。オアハカン ウッド カーヴィングではマヌエル・ヒメネスやサンティアーゴ・ファミリーの作品、やきものではゴルキー ゴンサレス、アギラール ファミリー、ホセー・ガルシア・アントニオなどの作品が目を引く。見慣れているとはいえ、周りの雰囲気が変わると作品の印象も変わり、時間を忘れて堪能してしまった。なかには、明らかにイシドーロ・クルースの作品とわかる木製のアルマジロの椅子に作者不詳の文字。存命の人、亡くなった人にかかわらず、これだけたくさんの作家の作品を展示しているのだから、こんな事故もご愛敬、と思うことにする。

メキシコの国土は日本の5倍。そのうえメキシコはフォークアート大国。となると、すべての土地をまわって、各地に散らばっているフォークアートを見尽くす、というのはあまりに途方もない考えである。まずはこの美術館を訪れて、自分のほんとうに求める作品を見極めてからその故郷に向かう、というのはひとつの方法かもしれない。そんな意図がなくても、こんなに簡単にひとところで最高のメキシコのフォークアートを楽しめる、というのはかなりうれしいことである。