メキシコ・オアハカ州サン バルトロ コヨテペックでつくられた黒陶のベル「エスキールラ」。イームズ ハウスのドアベルに使われていることや、濱田庄司が『世界の民芸』(朝日新聞社)で紹介したことなどで広く知られるこのベル。本来は、養蜂家がミツバチを巣箱に集めるために使う道具です。
〈黒陶の四つベル「エスキールラ」〉
「エスキールラ」は四つのベルを十字に組んだような力強くも美しい形姿である。だが飾っておくための置きものなどではなく、立派な実用品。エスキールラは養蜂に用いる道具で、これを鳴らすとミツバチが巣箱に集まるという。
このエスキールラのことを気にかけてはいたのだが、まったく見かけないのでもうつくられていないのかと思っていた。あちこちで尋ねてみたものの、つくっていない、と言われ続けてきた。ところが、6世代、200年もの長きにわたってエスキールラをつくり続けている陶工一家が今もあった。当代の陶工は、たまに探し求めてやってくる養蜂家のためにエスキールラをつくり続けてきたという。でも、つくるのはごくまれだとか。需要が多いとはいえない特殊な道具ゆえ、つくる陶工も少なければ、つくられる頻度も数も少ないのである。エスキールラを見かけなかったのは、つくられなくなったからではなく、巡りあえなかっただけだったのだ。
エスキールラのくびれた部分を持って振ると、とてもいい音がする。手に馴染みやすく、大きな音も心地よく響く。でもなぜこの音で、ミツバチが巣箱に集まるのだろう。陶工に尋ねてみたが、その理由はわからない、と。




〈黒陶の町 オアハカ州サン バルトロ コヨテペック〉
オアハカ州サン バルトロ コヨテペックは古くから黒陶の産地として知られている。有名なドーニャ ローサの工房以外にも、たくさんの工房があり、町のいたるところに黒陶が飾られている。


