LABRAVA

メキシコノート 0013

セルヒオ・サントスさん

La Union Tejalapam, Oaxaca, Mexico, 2005

オアハカ州ラ・ウニオン・テハラパン村のセルヒオ・サントスさんは、有名なオアハカン ウッド カーヴィングの作家である。1962年、隣町のサン・フェリーペ・テハラパンで生まれたが、1988年にアデリーナさんと結婚して、アデリーナさんの生まれたこの村に移り住んだ。オアハカン ウッド カーヴィングに携わるようになったのもこのころで、アデリーナさんのお父さんのサンティアーゴ・クルースさんに教わりながら作品をつくりはじめ、ウサギやネズミ、ネコなどのモチーフでみるみる有名になった。小柄だけれど、ヒゲをたくわえたたくましい、浅黒い肌のこの人の手からつくられる作品は、意外にかわいい。どれも体じゅうが弛緩してしまうようなあったかい表情をしている。寸胴のフォルムにも、なんともいえない愛くるしさがある。仕上げにブタの毛を利用したヒゲがつけられると、その数本の微妙な量が、楽しい微笑を誘う。

セルヒオさんは有名作家ではあるけれど、それだけで生活が成り立っているわけではない。大概の作家がそうであるように、農業などとの兼業だ。彼の場合は、所有する小さな農地で自宅用のトウモロコシや豆をつくるほかに、卵を売ったり、方々の農地に出向いてトラクターの運転手をしたりして収入を得ている。忙しいときなど、追い打ちをかけるように作品を注文すると「日中は農作業で、夜は作品づくり。電球1個だから暗くてつくるスピードが落ちるんだ。すっかりくたびれちゃったよ」とぼやくこともある。でも、たしかに目は充血し、声には疲れがみえるものの、まんざらでもなさそうなニュアンスがそのにこにこした表情にうかがえる。お金のために作品をつくっているのは当然なのだけれど、それだけではない、楽しみみたいなものが彼の内にあるような気がした。そういえば彼は以前、アメリカに出稼ぎに行っていたことがある。ワシントン州の建設現場で働いたり、庭師をしたりしていたらしい。「ヴェトナム人の家で働いていたときに、箸の使い方を覚えたよ」と、つらい異国での暮らしも楽しい思い出のように話してくれる。苦しいとき、下をむいて歯をくいしばってがんばる、というよりは、すべてを受け入れて前をむいて笑う、そんな彼のスタイルが心地いい。

ほんとうは疲れ切ってため息をつきながら、黙々と木を彫っている夜があるかもしれない、と気の毒な気もする。でも、彼が生み出したできたてのウサギやネズミが、あのパッチリした目とあったかい表情で、だれよりも先に彼を癒しているにちがいない。