LABRAVA

メキシコノート 0041

豚インフルエンザ

メキシコの豚
San Martin Tilcajete, Oaxaca, Mexico, 2009

新型(豚)インフルエンザ流行のピーク時にメキシコに滞在し、インフルエンザ発生が発表された直後、最初に到着したメキシコからの直行便で帰国するという願ってもない、がだれも望まない「幸運」に浴した2009年4月から2か月後、またメキシコへ行くことになった。せっかくの機会だからと、当のメキシコで新型インフルエンザについて尋ねてみた。

まずはメキシコシティで。「もう終わった」「いまは完全にコントロールされているから大丈夫」というのが、聞いた人たちの大方の考え。なるほど、現実的で模範的、実状に即した答えだ。ところがオアハカでは「インフルエンザ流行なんてウソ。政府はウソをついている」というのがいちばん多かったのが印象的。それとは別に「全然なんともないよ。この辺じゃ、だれもインフルエンザになんかかかっていない」「平和だよ」「たいへんなのはメキシコシティだけ」などなどの、なんの緊迫感もない答えもよく聞いた。オアハカでは2006年に死傷者が多数出た教員デモがあり、続いて世界的な景気の悪化と、ただでさえ観光客の足が遠のいているのに、そこへもってきて今回の新型インフルエンザ騒ぎ。もう勘弁して、とちょっぴりあきれた気分になるというのが正直なところらしい。

ところで、日本政府が7650万円かけて緊急援助した25台のサーモグラフィのうちの1台は、オアハカ市内の一等バスターミナル乗車口横に設置されていた。誇らしげに日の丸ステッカーが貼られたそのサーモグラフィ、係の人がいるわけでもなく、電源が入っていることもなくただの不思議な飾りになっていた。祭りのあと、といった風情のさびしげな佇まいがせつない。この新型インフルエンザ騒ぎ、なんだかみんなが踊らされて、そして踊ったぶんすっかり疲れてしまっただけだったような。