LABRAVA

メキシコノート 0037

太陽の国? メキシコ

Uruapan, Michoacan, Mexico, 2009

世界中を見渡せばメキシコだけがカラフルな国というわけではないのだろうけれど、豊かな色彩にメキシコらしさを見る人は多い。たとえば、日本でもよく知られているメキシコの建築家、ルイス・バラガン。色彩は彼の作品を構成する一要素にすぎないとはいえ、やはりあのピンク色の壁のインパクトは強烈なようで、メキシコの写真を見て「バラガンみたいなピンク色の家がごく普通にあるんだ」とびっくりする人は結構いる。あのピンクはメキシコのペンキ屋では必ず売っているとてもポピュラーな色で、その名もrosa mexicano(メキシコのピンク)と呼ばれているものだ。メキシコでは、メキシカン・ピンクやオレンジに塗られた家々の壁、紫色の教会、ペパーミントグリーンの墓標などなど、実にカラフルなようすを目にすることを思えば、そんな色彩の豊かさをメキシコらしさ、というのもまちがいないかもしれない。それに、現在はただの石の固まりとしか見えないメキシコ各地のピラミッドも建造当初は鮮やかな色にペイントされていたらしく、これがメキシコ先住民のもともと持ち合わせていた色彩感覚によるものだと信じてもいいだろう。となれば、メキシコの色彩の豊かさが、歴史的にも証明されたようで心強い。そこにカラフルなラテン文化が持ち込まれ、先住民の色彩感覚と融合したのだとしたら、これぞまさに混血の妙、メキシコらしさとも思えてくる。

真偽のほどはわからないが、気候が温暖な地域では寒冷地に比べてカラフルなものが好まれる傾向があるとか、太陽光の照度が視細胞の発達に影響するとか、環境と色彩感覚には関係があるという説もよくみかける。そういえば、「陰翳礼賛」気質とされる日本人のわれわれですら、メキシコに数日滞在するだけで、その色の洪水を美しいと思いこそすれ奇抜とは感じない。日本でピンクの家はびっくりするけれど、メキシコでは意識せずに通り過ぎる、ということだ。つまるところ太陽光のせいらしい。よくある「太陽の国メキシコ」という紋切り型のフレーズも、まんざら的外れでもないか。

環境は色彩感覚だけじゃなく、料理や酒の好みだって変えてしまう。メキシコでは煮魚やおひたしをつつきながら純米酒のお燗を飲みたいとは思わない。はっきりした味の料理がメキシコの気候には合っているし、ビールはやっぱりラガーがぴったりで、エール系はちがう。ふだんは飲まないコカコーラなんかの炭酸飲料もウマく感じる。ちなみに、昔ながらのオリジナル・レシピに近い製造法でつくられているからメキシコ産コカコーラは格別においしいらしい、というのはまた別の話。音楽だってそう。バスやタクシーの低音をブーストさせたサウンドシステムで無理矢理聴かされるヌルいメキシコ産クンビアやバンダだって、なんとなくカッコよく感じてしまう。と、こんな具合だ。

そうそう、メキシコの太陽と色といえば、有名なビーチ・リゾート、プエルト・バジャルタ周辺ではあの「緑の光線」を見ることができるようだ。まあグリーンフラッシュを見るためだけにわざわざ行くかどうかはともかく、メキシコとビーチが好きで、なにかロマンティックな体験をしてみたいなら、訪れてみるのもいいかもしれない。そのうえエリック・ロメールが好きなら、もう絶対に行くべき、か?