LABRAVA

メキシコノート 0021

焼きトウモロコシ売り

Oaxaca, Oaxaca, Mexico, 2007

路地を曲がると、パチパチとトウモロコシが爆ぜる音が聞こえる。くわえて、香ばしいいい香りが鼻孔をくすぐる。夕暮れとともに、焼きトウモロコシ売りが路地に店開き。メキシコでよく見かけるこのおいしい光景の前を素通りすることはなかなかできない。どうしても食べたくなる。頼むと、その場で炭火焼きにしてくれる。焼き上がると塩と粉トウガラシをふりかけ、ライムをしぼって出来上がりである。日本で食べ慣れているトウモロコシと比べると、固くて甘みが少ない。が、これはこれでたまらなくおいしいのだ。

メキシコには、焼きトウモロコシ屋台のほかにゆでトウモロコシの屋台もある。こちらは、丸ごと1本か、カップ入りの粒の2種類から選んで買う。どちらもトッピングは同じで、マヨネーズをたっぷりとつけ、粉のチーズとトウガラシをふりかけて、最後にライムをしぼってくれる。焼きトウモロコシにゆでトウモロコシの屋台、両方を兼ねている場合もあるけれど、どちらかというとゆでトウモロコシ屋台のほうが焼きトウモロコシのそれより多いようだ。もくもくと湯気の立つゆでトウモロコシの入った大鍋を据えつけた自転車屋台がずらりと10台も並んでいたりすると、これがなかなかの壮観で、やはり素通りはできないのである。

トウモロコシは主食であるトルティージャの原料で、メキシコでは欠かすことのできない食材である。にもかかわらず、2006年から2007年にかけてトルティージャの価格が上昇し、メキシコ各地で抗議デモが頻発する事態になった。トウモロコシがバイオ燃料に使用されることに注目が集まり、トウモロコシの価格が高騰したからである。生産されたトウモロコシがバイオ燃料にまわされるようになったのは、隣国アメリカでの話なのだけれど、メキシコで食されるトウモロコシの一部はアメリカから輸入されていたので、メキシコにもその影響が及んだらしい。

地球にやさしい燃料のために、人間がごはんに困るというのはどうだろう、などと考える。もっと奥深い問題もありそうな果てしない疑問をああでもないこうでもないと考えているうちに、トウモロコシが焼き上がった。これはアメリカ産だろうか。熱々の焼きトウモロコシを手にしながら、ふとそんな思いも浮かんだが、地方の街の屋台のトウモロコシがそんなことはないだろうと、取りとめのない考えを結ぶ。仮にこれがアメリカ産だとしても、トウガラシをかけてライムをしぼった味付けは、メキシコそのものなのだ。