LABRAVA

メキシコノート 0014

ホセー・オリベーラさんの切り株

San Martin Tilcajete, Oaxaca, Mexico, 2005

ホセー・オリベーラさんは細かなペイントのミニチュア動物で人気のオアハカン ウッド カーヴィングの作家である。彼の工房は、中庭に屋根が張り出した、半分屋外で半分家のなかというようなところ。テラスと言いたいところだが、そうたとえるには少し荒々しすぎるような無造作な感じの空間だ。いずれにしても、それは工房である。そこには彩色のためのテーブルが置かれ、カラフルなアクリル絵の具や絵筆が並ぶ。そして、切り株といすがある。いすに座って、この切り株の上で木を削り、彫るのである。木くずがこんもりと残るこの一隅からは、彼の製作中の息づかいが聞こえるようだ。丸太から削りとられたつくりはじめの大きな木くず、最後の仕上げの小さな木くず、ダイナミックに繊細にマチェーテ(山刀)とナイフを自在に操る姿がみえる気がする。

ほかのオアハカン ウッド カーヴィングの作家の工房もここと様子はほとんど変わらない。木を彫るスペースには、ほぼ切り株があっていすがある。でも、切り株の大きさはいろいろだし、その年季の入り具合もそれぞれで、それにまわりに落ちている木くずの量もさまざまだ。カルロス・モラーレスさんは、木くずをためにためてその山が膝まで届こうかというくらい。彼のいすは、なぜか自動車のシートだというのもおもしろい。ホセーさんの義兄、イノセンシオ・バスケスさんの家では、イノセンシオさんとふたりの息子用の切り株といすのセットが3つ、等間隔に並んでいる。3人が上半身裸でマチェーテを振るう姿は、力強さにあふれエネルギーが漲って気圧されてしまいそうだ。イノセンシオさんの切り株は息子たちの切り株よりひと周り大きい。大きさの違いには、父の威厳と先達への尊敬が感じられる。重鎮イシドーロ・クルースさんの切り株には、脚がついている。気の利いたサイド・テーブルといった趣だが、ここにガツッガツッと斧やマチェーテをぶつけてもがたつかない堂々とした作業台なのだ。マルティン・サンティアーゴさんは、大きな切り株ではなく、50センチほどの長さのそんなに太くない丸太を半分に割って、脚をつけたものを作業台にしている。この小さな作業台で小さな作品をつくっている。カルロス・モラーレスさんの弟、スサーノ・モラーレスさんは、工房を自宅の一隅から村のメインストリートに面した一室に移した。その際も切り株はいっしょに引っ越しをした。場所はかえても切り株はかえない。まだ移って間もないころには、がらんとした殺風景な部屋に、使い古した切り株が不釣り合いな感じがしたものだが、木くずにまみれてどんどん部屋のほうが切り株になじんでいく。

どの作家を訪ねても、つい切り株に目がいく。切り株のまわりに木くずにまじって落ちている、作品づくりの余韻を楽しみたいような気がするからだ。現にいろいろなものが落ちている。マチェーテ、ナイフ、子どものおもちゃ、靴、ただのゴミ。ホセーさんの切り株の横の木くずにまじったマチェーテの上に、黒ネコが丸くなって眠っていた。彼の作品にはネコのモチーフが多いせいか、この光景がとてもしっくりとくる。自分がモデルだと言いたげな、得意そうな様子で切り株に寄り添っていた。