アレブリヘ(アレブリヘス)とは?

メキシコのオアハカ州でつくられている木彫り、これを「アレブリヘス(Alebrijes)」と呼ぶ人もいます。本当は「リ」にアクセントが付くのでアレブリーヘスと表記するのがいいかな、と思いもしますが、アレブリヘスでいきます。アレブリッヘスでもいいのですけれど、これだとなんだかイタリア語風になってしまいますし。ちなみにアレブリヘスは複数の場合。単数ならアレブリヘ(アレブリーヘ)になります。

さて、いずれにしてもこの「アレブリヘス」という呼び名は間違いなんです。じゃあ、なんて呼ぶの? と問われても、答えに窮してしまいます。実はオアハカの木彫りには名前がありません。観光客向けの工芸品として1950年代につくりはじめられ、決まった呼び名がないまま有名になってしまったものですから。でも、「あれ」とか「木のヤツ」とかそんな風にばかり呼んでいるわけにもいきません。で、単純に「オアハカの木彫り」とするか、とも思いましたがあまりに味気ない。



そこで、「オアハカの木彫り」を、ただ英語にしただけではありますが「オアハカン ウッド カーヴィング」と呼ぶことにしました。こんなふうに本のタイトルにもなっているし。


OAXACAN WOOD CARVING - THE MAGIC IN THE TREES(1993年/Chronicle Books刊) 掲載作品は有名作家をほぼ網羅しているので、オアハカン ウッド カーヴィング入門用として便利です。


こちらはアイオワ大学人類学部教授Michael Chibnik氏の著作。やはり「オアハカン ウッド カーヴィング」ですね。


CRAFTING TRADITION - THE MAKING AND MARKETING OF OAXACAN WOOD CARVINGS(2003年/University of Texas Press刊) オアハカン ウッド カーヴィングについて詳しく知りたい方はぜひ読んでみてください。


でも、なぜ「アレブリヘス」と間違って呼ばれることがあるのでしょうか。もともとアレブリヘというのは、メキシコシティの有名な紙粘土細工一家、リナーレス・ファミリーが1940年代からつくっている怪獣みたいな作品の呼び名です。1980年代後半、あるバイヤーが、このリナーレス一家のアレブリヘをモデルにしたウッドカーヴィングをオアハカの職人につくってもらいました。これが「アレブリヘ」という名で紹介されて大人気に。ネコ、アルマジロ、カエル、コヨーテなどと同様に、この「アレブリヘ」もオアハカン ウッド カーヴィングの定番モチーフとしてたくさんつくられるようになりました。

でこのころから、「アレブリヘス」とはオアハカン ウッド カーヴィング全体を指す呼び名である、と一部の人に勘違いされるようになってしまいました。ただ単純に「アレブリヘス=オアハカン ウッド カーヴィング」だと誤解した人が多かったのか、あるいは「オアハカン ウッド カーヴィング」なんて呼ぶより「アレブリヘス」のほうがエキゾチックだしキャッチーだし売りやすいしなにかと便利でいいじゃないか、と誰かが企んだのか、理由はわかりませんけれど。

ネコとかイヌとかカエルとかウサギとかガイコツや悪魔とかと同じように、オアハカン ウッド カーヴィングのモチーフのひとつとして定着したアレブリヘ。どんな姿かというと。



アレブリヘ

これとか。



アレブリヘス

これとか。 大きな頭で2~3頭身、長い角、大きな耳と羽と尻尾、長く突き出した舌。この形をしたものがアレブリヘです。「アレブリヘス=オアハカン ウッド カーヴィング」と勘違いしている人対策として、場合によっては以下のような展開で「火星人」と呼ぶことも。

観光客 「これなあに?」
オアハカの職人 「アレブリヘだよ」
観光客 「だからアレブリヘスのなあに?」
オアハカの職人 「だからアレブリヘだってば!」
観光客 「アレブリヘスなのはわかってるって。アレブリヘスのなにかを知りたいんだよ」
オアハカの職人 「うーん、えーと、これは・・・、火星人、だヨ」



このさい、興味本位で「アレブリヘス」という呼び名について、作家に聞いてみましょう。



オアハカン ウッド カーヴィング界の最古参作家、イシドーロ・クルースさん。「わたしはただ木彫りと呼ぶ。わたしの作品は『アレブリヘス』ではないよ」



今や大人気のミゲル・サンティアーゴさん。子どものころ、創始者マヌエル・ヒメネスの家のごみをあさり、捨てられた木片などを見て研究して、独学で技術を磨いた強者の意見をきく。



「わたしの名刺を見て。彩色された木彫りアート、とあるだろ。『アレブリヘス』ではないよ」



そうか、名刺で確かめてみよう。ほかの作家の名刺も見てみることに。



「木彫り作家」「木製の工芸品」「木製の人形」などなど呼び名はまちまち。いろんなことが書いてあるけれど、だれも「アレブリヘス」作家とは書いていません。



とはいっても、村のなかでは「アレブリヘス」の看板を出す家を見かけることもあります。はて? あっ、こんなに村の外れに来てしまうと、看板どころか家もありませんけど。



再びイシドーロさんに水を向ける。「『アレブリヘス』ということにしておけば、『アレブリヘス=オアハカン ウッド カーヴィング』と勘違いしてやってくる観光客に売りやすい、そういうことじゃないか~」



実際、イシドーロさんをはじめとする良識ある作家は「アレブリヘス」と呼ばれることをすごくイヤがっているんです。あれは北アメリカ人が勝手に呼びはじめたんだ、と言って。それに、モチーフとしての「アレブリヘ」もつくっていませんし。

このように間違って「アレブリヘス」と紹介されてしまうこともあるオアハカン ウッド カーヴィング。ほかにも、まことしやかに「サポテコ族の」「伝統的な」「オモチャ」とか、「祭壇に飾る」「守り神」「魔除け」などと紹介されることがあるんですけれど、これも全部売らんがためのウソです・・・。

さて、 オアハカン ウッド カーヴィングについてもっと知りたくなってきた方は、



ぜひ「Oaxacan wood carving 進化するメキシカン・フォークアート」展へ。



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