LABRAVA

メキシコノート 0049

ドゥランゴのサソリ時計

西部劇 撮影 ドゥランゴ ウエスタン 映画村
Durango, Durango, Mexico, 2001

メキシコ北西部にあるドゥランゴ州は「映画の地」として知られている。ここではメキシコ映画だけでなくハリウッド映画もたくさん撮影されてきた。猛々しい岩山や荒涼とした砂漠、趣ある大農園や古めかしい鉄道駅など画になる風景を有しているうえに、積極的に撮影を誘致するフィルムコミッションにも属していて、自治体をあげて環境を整えているのである。

そのドゥランゴで初めて撮影されたのは、1898年のエジソンの撮影隊による「列車の到着」なのだそうだが、ラオール・ウォルシュ『ビジャ将軍の人生』が初の本格的な映画といえる。1914年、メキシコ革命最中のパンチョ・ビジャを撮影したフィルムをもとにしたもので、ドゥランゴ生まれの革命の英雄ビジャがハリウッド俳優となった映画である。その後、少し間があき、1954年にロバート・D・ウェッブ『白い羽根』が撮影されてから、現在までに多くの映画が撮られている。

州都ドゥランゴ市の近くには、チュパデーロス、ビジャ・デル・オエステなどのレプリカの西部の町があり、いくつもの西部劇が撮影された。州北東部のオフエラの吊り橋も、アレハンドロ・ホドロフスキーの『エル・トポ』や、アレックス・コックスの『PNDC エル・パトレイロ』で印象的だ。見るだけで足がすくむような峡谷にかけられたこの吊り橋は、谷底まで約100メートル、長さ約300メートル。鉱石の搬出のために、1890年代につくられたのだそうだ。長い歳月とその頼りなさに恐怖感がつのる。でもこの吊り橋、スリルだけが魅力なわけではなく、荒々しい風景にすらりとした姿がとても美しい。

ボブ・ディランの「ドゥランゴのロマンス」では、男とマグダレーナが馬に乗って逃げ、神に見守られながらも、とうとうたどり着けなかったらしいドゥランゴに、バスに乗っていとも簡単に行き着いた。フレームに区切られないどこまでも広がるドゥランゴの景色を堪能し、ドゥランゴ市内にある映画博物館では、ポスターをながめたり、一室に設えられたセットで写真を撮ったりして映画の世界を満喫する。

しかしフォークアートを、と考えるとほぼ不毛地帯。見るべきものはないだろうと思いつつも、バスターミナルでバス待ちの束の間、売店を覗いてみる。と、文字盤にサソリを無造作にはりつけただけの愛想もない時計を見つけた。体育館にあるような巨大な時計から居間サイズの小さなものまで、どれもこれも砂漠と荒野の土地柄を遺憾なく発揮した、なんとも安っぽく寂寥たるお土産もの。ひとつ手にとってしみじみと眺めた。別に幻滅はしない、これもドゥランゴ、映画もドゥランゴ、なのだ。そういえばドゥランゴは「サソリの地」ともいわれるとか。