LABRAVA

メキシコノート 0060

ベラクルス州コスコマテペックの「皇帝の宿」

メキシコ・ベラクルス州コスコマテペックのホテル Posada del Emperador
Coscomatepec de Bravo, Veracruz, Mexico, 2014

コスコマテペックに着いた。メキシコを猫が伸びをして反り返った形と見れば、背中の湾曲した辺りのベラクルス州の中程、山の中にある小さな町である。略してコスコとも呼ばれる。町の中は坂道だらけで、周りは山だらけのコスコ。訪れる目的など、さて何だったかな。というか、あったかな。

このコスコには、ちょっとおもしろいホテルがある。その名も「皇帝の宿」。メキシコ初の先住民の大統領ベニート・フアレス、フランス傀儡政権時のメキシコ皇帝マクシミリアン、この二人が滞在した部屋がそれぞれ残っていて、普通に宿泊できるという。実際にホテルを訪ねてみると、今は宿泊できないとのことだったけれど、見るだけなら許された。どちらの部屋も決して広くはないながら、重厚な家具、手の込んだ細工が施された調度品、天蓋付きベッドなど、タイムスリップ感たっぷりだ。ベニート・フアレスは1857年に、マクシミリアンは1864年に宿泊したそう。その間、7年か。その後の二人の運命の交差を考えると、こんな山の中の小さな町の同じホテルに泊まり、それもその部屋が今も残っているというのがなんとも不思議。どちらかの部屋に泊まれたらよかったのに。でも、誰も泊まらせないでこのままそっとしておいてほしいとも思ったり。

メキシコ政府観光局は、超メジャーではないけれどおすすめのこじんまりとした観光地を「プエブロ マヒコ」として認定している。コスコも「プエブロ マヒコ」のひとつである。なので、この先どんどん上り調子で観光地然とした雰囲気になっていくかもしれないが、今のところ圧倒的な観光資源があるわけではない。それでもちょっとした見どころはある。古いパン屋さんとか葉巻工房とか。コーヒーもおいしい。祭りもすごそうだ。それにコスコでは、昔ながらの物々交換で取り引きされる古代市場さながらの市が毎月曜日に立つ。週に一度、山奥の集落から家畜や農産物を持ち寄った人々がコスコに集まってくるのである。なんだかいい雰囲気だな。これだけで十分。こういう町なら、目的などもたずにふらっと訪れたのは正解だったかな。