LABRAVA

メキシコノート 0044

オアハカの焼肉小道

オアハカの焼肉タサーホ
Oaxaca, Oaxaca, Mexico, 2009

安くておいしい庶民的な食堂がずらりと並ぶオアハカ市のベインテ・デ・ノビエンブレ市場のなかに、何ごとかと思うほど、もうもうと煙をあげている通路がある。いいにおいもする。実はここ、炭火で焼いた焼きたての肉を食べられることで有名な「焼肉小道」なのである。ぱっと見た感じは精肉売場にテーブルがあって、そこで軽く食事もできる、といった風情である。ただ、席に着けば店の人が注文を聞いてくれる、というような通常のシステムではない。ここのシステムはちょっとわかりにくくて、地元の人でさえ最初は戸惑うほどなのである。

まず焼肉小道に足を踏み入れると、セボジータ(小さなタマネギ)や生のトウガラシを載せたザルをもつ店員のなかば強引な客引きにあう。ただここで、相手に気圧されてはいけない。その店員の陣地のテーブルが「ビールを飲めるテーブルかどうか」を確認しなければならないのである。ここには、アルコールを出せるテーブルと出せないテーブルがあるからだ。目印はない。店員も聞かないと教えてくれない。注文して「ビールは出せない」と言われてはじめてわかるのだ。同じように並ぶテーブルにそんなサービスのちがいがあるなんて想像できないけれど、店員のなすがままに適当なテーブルに着くと、せっかくのおいしい焼肉を食べながら甘い清涼飲料水を飲むはめになる。

テーブルを決めたら、店員から先ほどのザルを受け取る。そして食べたいぶんのセボジータとトウガラシをザルに残して、いらないぶんは返す。そのザルをもって、通路にずらーっと並ぶ肉屋に、メインの肉を買いにいく。肉の陳列台で注文すると肉切り係が手際よくパパッと切ってくれる。そしてすぐ隣の炭火の焼き台にいる焼き係がザルを受け取り、セボジータとトウガラシを真っ赤な炭のなかに直接放り込み、その上に網をかけて肉をのせ、うちわでパタパタとあおぎながら焼きはじめる。そこで肉の分だけお会計してテーブルへ。

さてテーブルに戻ったら、店員がもってくるサルサやサボテン、ワカモーレ、ラディシュなどのなかから欲しい皿を受け取る。飲み物もこの人に注文。そのうちに肉屋の焼き係が焼き上がった肉を、いっしょに焼いたセボジータやトウガラシとともにザルにのっけて、テーブルに持ってきてくれる。と、そのタイミングでトラユーダ(オアハカ独特の直径30センチぐらいの大判でパリッとした食感のトルティージャ。このトラユーダにいろんな具をのせたり挟んだりした料理もやっぱり「トラユーダ」という)売りのおばさんがやってくるので、お金を払って食べたい枚数を購入する。これでようやく食卓の用意は完璧に。十分食事を楽しんだら食後に、セボジータやサルサ、飲み物などをテーブル担当の店員にまとめてお会計してもらう。つまりここでは、肉、その他の食べ物と飲み物、トラユーダと会計が三つに分かれているのだ。なんてまどろこしい、と思うのだが、当の焼肉の至極のおいしさに、またまた出かけてしまうのである。

ここで食べられる肉は、なんといってもオアハカ名物の干し牛肉タサーホ。トウガラシペーストなどで漬けた豚肉セシーナ・エンチラーダやチョリソーもある。フォークやナイフはないので、焼きたてのタサーホを手で裂きながら、トラユーダに巻いては食べ、巻かずに食べ。手づかみの豪快な食べっぷりがまたおいしさを増す。そして炭火焼きのトロリとやわらかいセボジータの甘みにうっとり。焼いたトウガラシも味のアクセントに。ただなかには地元の人も食べないほど辛いものが混じっていることもあるので、いきなりかぶりついてはあぶない。

ところで、ここは開かれた職場でもあるようだ。何人かフェミニンな男の店員がいる。やさしいもの言いと表情は、まちがいなくそういう人だ。それを隠すようすもなくパフスリーブがはちきれそうないかつい二の腕をてきぱきと動かす姿は、なんだか清々しい。そんな焼肉小道の懐の深さがうれしくて、ここがますます好きになるのだった。