LABRAVA

メキシコノート 0043

スナ ホロビル

マヤの民族衣装ウィピル姿のマリア メサ ヒロン
Tenejapa, Chiapas, Mexico, 2009

チアパス州の旧州都サン クリストバル デ ラス カサス周辺のマヤ系先住民の民族衣装は、数あるメキシコの織物のなかでもよく知られているもののひとつだ。ところがよく知られてはいるものの、当のサン クリストバル デ ラス カサスに出かけても、細やかで確かな技術の織物をどこでも手に入れられるというわけではない。安いけれどそれなりのつくりのものなら屋台で大量に売られている。できにこだわらないなら、こういうものを買うのもいいと思う。ただ、もしこの地域の最高の手仕事を手に入れたいのなら、やはりスナ ホロビルをたずねるのがいいだろう。

スナ ホロビルは、850~900人ほどの織り手を有するマヤ系先住民の女性たちがつくる組合で、サン アンドレス ララインサルチャムラ、シナカンタン、テネハパ、パンテロー、マグダレーナスなどなど、この地域のほぼすべての村の織物や刺繍の作品を扱っている。織り手たち自身のこの組織は、先住民の伝統を守るため、1976年にひとりの先住民女性とその息子によってつくられた。テネハパ村のマリア メサ ヒロンとその息子ペドロである。そのころマリアとペドロは、伝統的な織りの技術が廃れることを気にかけ、なんとか伝承できないかと思っていたそうだ。そして、同じような考えをもつ織り手の女性たちを集めて組織したのが、スナ ホロビルのはじまりである。

伝統の技術を伝え、きちんとした織り手を育てること。そしてできあがった作品を、適正な価格で買い取り、販売すること。それがスナ ホロビルのおもな活動である。設立以来、マリアも自ら作品を織るかたわら、優れた後進を育てることに情熱を注いできたが、70歳を超えたいまでは以前のように織物をつくってはいない。とはいえ、マリアの技術を受け継いだ教え子たちがテネハパ村ではぞくぞくと育っているし、ほかの村々でも同じようにその村伝統の技術が伝えられている。1986年にスナ ホロビルがメキシコ国民栄誉賞<伝統工芸部門>を受賞したこと、そして「グレイト マスターズ・オブ・メキシカン フォーク アート」150組にスナ ホロビルのメンバーから6人が選ばれたことも、そうした活動が広く認められた証。

まわりの人に気づかされ、また守られる伝統、というのもある。でも、スナ ホロビルは先住民自らが伝承を憂慮して立ち上げた。その心意気は30年以上たった今もかわらない。もっと力強いことに、現在のスナ ホロビルはつくり手だけでなく、広い地域に散らばっている織り手の作品をまとめ、またそのレベルを保つために力を注ぐ、確かな知識をもった8人のスタッフたちが支えている。織物の知識に加え、村々の事情、この地域のマヤ文化についても驚くほどたくさんのことを知っているやはり先住民のスタッフのフアン ヒロンに、スナ ホロビルとはマヤ系先住民族のひとつツォツィル族の言葉で「織物の家」の意だと教わる。のどかな語感がこの土地らしいとずっと思っていたけれど、それだけでなくちゃんと実態に見合った意味をもっているのだった。