LABRAVA

メキシコノート 0034

コロニアル・ホテル

Queretaro, Queretaro, Mexico, 2007

その地に住まいをもっているのならともかく、旅する限りはホテルが仮ながらもたいせつな居場所である。アパートを借りたり家を買ったりして住みついてしまえば、そう簡単には住み替えもかなわないだろうけれど、旅の居場所のホテルなら好きなように気軽に選べる。とはいっても、もし外国を旅したなら、その国ならではの雰囲気をもったホテルがいいとは思わないだろうか。メキシコで、メキシコ的なホテルといえば、スペイン植民地時代の風情を残すコロニアル都市にあるコロニアル・スタイルのホテルだ。入り口はそんなに目立たないけれど、エントランスをぬけると明るい中庭が開け、その庭を2階か3階建てくらいの部屋がぐるりと囲んでいる。この中庭がレストランになっていたり、植栽と噴水などで飾られていたり、そんな中庭と建物のセットが二つ三つと連なっていたり、とパターンはいろいろとある。もともとホテルとして建てられたものもあるけれど、植民地時代は富豪の邸宅だったり修道院だったりした歴史的な建造物をリノベーションしたものも多く、値段やサービスはピンキリながら、どのレベルでも、東洋人にとっては異国の情緒がふんだんに味わえるうえに、歴史を感じさせる落ち着いた雰囲気がなんとなく気分をリラックスさせてくれるのだ。

ケレタロ州ケレタロにあるホテル・イダルゴは、やはりコロニアル・スタイルのホテル。1825年に建てられたケレタロでいちばん古いホテルなのだそうだ。バルコニーからサンフランシスコ寺院が見えるマデーロ通りに面した部屋から、窓のないふとん部屋のようなシングルまで、いろいろな部屋がある。宿泊料金は同じベッド数だったらロケーションにかかわらず一律だから、どの部屋にあたるかは運と交渉次第、というところ。しかし、バルコニーなしの部屋だからといって落胆するにはおよばない。小さな窓しかない部屋でも、古めかしいドアなどが落ち着きを感じさせて、意外と居心地がいいのだ。部屋から出て中庭をのぞむと、明るい陽光と華やかな花々が気持ちを上向きにする。威厳の残る石造りの階段をおりて中庭を囲む1階のテラスのソファにもたれていると、故もなく贅沢な気分になる。夜は中庭のバーで、ケレタロ風エンチラーダをつまみながらテキーラを楽しむ。ところが廊下は真っ暗。もちろんバリアフリーが行き届いているような建物ではないから、そこかしこに段差がある。何泊かしているうちに段差の箇所は覚えるものの、なぜか同じところでつまずく。舌打ちをしつつ部屋に戻るのだが、翌朝になって晴れ晴れとした中庭に出て清々しい気分になると、昨夜のつま先の痛さなど忘れ、今時古い建物の真っ暗な廊下なんてあまり体験できない、なにかがいそうな気配が楽しかったとすら思えてくる。

コロニアル・ホテルは建物が古いぶん、設備が行き届かないところもある。これを味とみるか不便と感じるか、それは人ぞれぞれだ。コロニアル・ホテルではなくても、シェラトンやホリデイ・インといった国際的なチェーン・ホテルや、有名建築家が設計したデザイン・ホテルなどを楽しむのもいいだろう。リッチなリゾート・ホテルも浮き世離れしたヴァカンス気分を満喫できるはず。安くて清潔なビジネスホテルのようなところも安心できるだろうし、日本人の集う宿で旅の情報交換をするのもいい。と、思うのだが、メキシコ中をつらつらと旅していろんなホテルを泊まりあるいてみて、結局のところやっぱりメキシコを旅するなら、断然メキシコならではのコロニアル・スタイルのホテルがいいと思い至った。ただ、そういうことなのだ。