LABRAVA

メキシコノート 0033

アツォンパ村の陶芸家アベリーノ ブランコ

アベリーノ ブランコ
Santa Maria Atzompa, Oaxaca, Mexico, 2004

オアハカ州アツォンパは陶芸で有名な村である。この村の陶芸を世界的に有名にしたのは、テオドーラ ブランコという女性。彼女は、メキシコのフォークアートが注目されるようになった1950年代から、メキシカン フォークアート界で圧倒的なヒロインであり続けた。なにしろ米「LIFE」誌の表紙を飾ったほど有名だったのだから。彼女のつくるテラコッタの女性は、花々に飾られて美しくもあり、また独特な表情が可愛らしくもある。この人形の表面を小さな花などで立体的に飾るパスティジャーヘと呼ばれる技法が彼女のトレードマークで、無彩色だというのになぜか作品全体に華やぎを添える不思議な魅力がある。テオドーラは1980年に52歳で亡くなってしまったが、娘イルマをはじめそのファミリーがいまも彼女の技術と感性を受け継いでいる。

テオドーラの実弟、アベリーノ ブランコもそのひとり。ただ、小さなころから土に親しんでいたとはいえ、本格的に陶芸を始めたのはかなり遅かった。彼は陶芸に専念するようになるまでの32年間、ギタリストとして活動していたのだった。彼のつくるミニチュア動物のミュージシャンたちが、さらっとつくられているようでいて、ギターやトランペット、ヴァイオリンを持った姿がさまになっているのは、そんな彼の経験があるからだろう。そんなところに彼のオリジナリティが感じられておもしろい。

アベリーノ ブランコは現在、娘たちといっしょに仲よく作品づくりをしている。家のなかの作業部屋で土をこね、形をつくって、中庭の窯で焼成する。彼は、乾きを防ぐためビニール袋に入れた土の塊から、てのひらにのるくらいの量をとり、丸めたりのばしたりしているかと思うと、あっという間になにかをつくりあげた。その間、たったの3分くらいだったろうか。にっこり笑って、10センチほどの愛らしい猫のギタリストを手のひらにのせて差し出した。かつては、こうやっていっしょに作品をつくっていた奥さんはもうすでに亡い。人柄のあらわれたやさしい笑顔は彼にとってはふつうの表情なのだけれど、奥さんのことを話すときの微笑みはちょっぴり寂しそうで、胸にこたえる。作業部屋の、パスティジャーヘ技法のテラコッタのフレームに飾られた50センチ角はあろうかという大きな奥さんの写真が、家族の作品づくりを見守っている。