LABRAVA

メキシコノート 0027

グァナファトのマジョリカ焼

Guanajuato, Guanajuato, Mexico, 2004

グァナファト州グァナファトは、スペイン植民地時代の建築が並ぶ市街地と銀鉱山群がユネスコ世界遺産に登録されている、やさしい華やぎのある街。市街地の地下には、かつて坑道や水路だったところを利用したといわれる地下道がはり巡らされている。自動車はこの地下道を走るので、無粋なクラクションなどに邪魔されずに地上の美しい石畳の街並みをゆっくりと散策できる。入り組んだ小道をのぼって丘から見下ろす街は、ピンクや青、黄色などカラフルな建物や聖堂などがおもちゃのように見えて、とても可愛らしい。

グァナファトは、16世紀中頃に銀が発見されて以来、豊かな銀山に恵まれて発展した。250年もの間、全世界で産出される銀の20%とも30%ともいわれる量がグァナファト産だったというから半端ではない。採掘にはたくさんの先住民がかり出されたけれど、その富が先住民たちを豊かにしたわけではなかった。とはいえ、鉱山主の伯爵が建てた黄金の祭壇をもつバレンシアーナ聖堂や、銀の富で建てられた邸宅やフアレス劇場などが、世界遺産に登録されるほど誇らしいものになったことを思えば、ようやく銀の富が庶民に寄り添ったということができるのだろうか。

グァナファトの地は、銀を生み出すだけではなく、ミイラも生み出す。街のはずれにはミイラ博物館、ひねりも含みもなく、その名のとおりミイラを展示した博物館がある。館内では妊婦や子供、ヒゲの残る紳士ら100体のミイラが、なんとなく陰気な空気と匂いとともに迎えてくれる。この地のきわめて乾燥した空気とミネラル豊富な土壌が、埋葬から5・6年という超スピードで、完璧なコンディションのミイラをつくるのだそうだ。このミイラたちは、もとは墓地に埋葬された市井の人々である。遺族が墓地使用料を支払わないために掘り起こされたミイラたちのなかから、選ばれた者だけが博物館に展示される。墓地がいつも満杯のため、こういうオリジナリティあふれるシステムになっているらしい。これがいいのか悪いのか、グロテスクなのかユニークなのか。

グァナファトには、メキシコ国民栄誉賞を受賞した陶芸家、ゴルキー ゴンサレスの工房もある。近くのサンタ・ロサ山の土を使って生み出される彼の美しいマジョリカ焼は、メキシコのみならずアメリカや日本にもファンが多い。そのあたたかな印象の作品が並ぶ工房の奥には彼の住まいがあり、居間の窓際や壁のつくりつけの棚には、18・19世紀にグァナファトでつくられた古いマジョリカ焼が目映く飾られている。まさにこれを見て、ゴルキー ゴンサレスはこの美しい陶器づくりを再興させようと決意したのだった。長い年月を経ても色褪せないこの存在感を感じつつ、その昔も今も、グァナファトの土がこの美しさをつくり出しているのだとの思いが心にしみこむ。グァナファトの土は、銀もマジョリカ焼もつくり出す。そして、ミイラもつくる。ミイラのことは打ち消してしまおうと思ったのだけれど、はたと思い直す。美しいものもそうとは言いがたいものも、なにもかも分け隔てなくつくっているグァナファトの土に、生き生きとした気持ちよさがあるような気がしたゆえ。