LABRAVA

メキシコノート 0024

アバストス市場

Oaxaca, Oaxaca, Mexico, 2007

メキシコシティの巨大なメルセー市場や怪しげな呪術グッズを売るソノーラ市場など、メキシコでは、その土地土地の庶民の市場を巡ってみるのも楽しい。地方の先住民村などでは、常設の市場がないかわりに、決まった曜日に市がたつ。こういう市を見物するのも、いにしえの時を感じるようで、とても面白い。

オアハカ州オアハカ市のアバストス市場 Central de Abastosは、メキシコの数ある市場のなかでも、先住民の古代市場の雰囲気を味わわせてくれる場所のひとつだ。オアハカ市内はもちろん、近郊の村々からも人々が集まってくる。メインの建物とそのまわりの青空市場を合わせると相当に大きくて、地図をみた感じでは東京ドームの2倍ほどの広さがあるようだ。この途方もないスペースに、野菜や果物、肉やにわとり、魚などのあらゆる食べものに、服や靴、バッグ、さまざまな日用品、それにCDや民芸品などなんでも売っている。軽食堂もある。ここでは食事はできるけれどアルコールを出してはいけないことになっているので、メスカル酒をマグカップに入れてカモフラージュして供するのは、暗黙の了解の裏メニューだ。

建物の外は、連綿と古代から受け継がれてきた商いの雰囲気がより感じられる。地べたにものを広げ、売り手も地べたに座っているからなのだろうか。売っているものも大量ではなく、小さな入れものに上手に山盛りにしたトウガラシなどを売っていて、この規模の小ささが、さながらままごとのようで、昔ながらの雰囲気を醸し出している。ただでさえ売り手と買い手で活気溢れる場内をさらに盛り上げているのは、狭い通路を歩きながらものを売る人々の声。なかでもオアハカの巨大トルティージャ、トラユーダのかごを頭にのせて売り歩くおさげ姿の女性は、とても絵になる。「トラユーダス!」とはりあげる声もなんとも情緒深い。喧噪と情緒。市場のみせるいろいろな表情に心を躍らせる。

人々のにぎやかなやりとりを聞いていると、市場とはただ売ったり買ったりの商売の場というだけではない、人間どうしのつながりの場なのだと思い知らされる。それは今も昔も変わらないらしい。オアハカで3か月間を過ごし、80年余り前のこの喧噪を見たD. H. ロレンスは、『メキシコの夜明け』(古我正和訳/あぽろん社刊)でこういう。いわく「市場には黒い顔をして足音を殺し」「インディアンが、数えきれないほどにひしめき合っている」。「男や女、子供が足を棒にしながら山を越え谷を渡って何マイルも歩いてやって来る」のは「買ったり、売ったり、交換したり、取り交わすためだ。とりわけ、人間としての心を取り交わすためだ」と。そして、その心を取り交わすにぎわいを「巨大な騒音ではあるが、全然気にならない」という。まったくその通り。