LABRAVA

メキシコノート 0023

悪魔の人形をつくる「魔女」

Patzcuaro, Michoacan, Mexico, 2001

ミチョアカン州オクミーチョは、悪魔をモチーフとした彩色素焼き人形で有名な、先住民族プレペチャ族の村である。ガイコツなどもつくられているのだけれど、悪魔が圧倒的に多い。その悪魔たちはどれもユニークで、地獄からか異界からかこっそり抜け出してきて、この世界でやけに人間的な生活をおくっている感じだ。酒場で酔っぱらったり、バイクに乗ったり、ガイコツのカップルを乗せた人力車を引いたり、お通夜に集まったり。怪獣に近いようなおどろおどろしい姿の悪魔もいるが、なぜかその表情はとぼけていて、まったくこわくない。こわくないどころか、大口をあけて笑ってしまう。悪魔キリストと悪魔十二使徒による「最後の晩餐」などは、なんとなく小気味いい。

オクミーチョの悪魔の人形は、1960年代にマルセリーノ・ビセンテという人がつくりはじめた。男性ながら女性用のショールやアクセサリーを身にまとい、洗濯やトルティージャ作りなど普通は男性がやらない家事をこなしつつ、ひとりで暮らしていたのだけれど、1968年に35歳の若さで亡くなってしまった。村の酒場で酔っぱらいとけんかして殺されたのだそうだ。そんな彼のつくった楽しい悪魔たちが、村の伝統として受け継がれ、現在ではメキシコを代表するフォークアートのひとつとして知られるまでになった。

オクミーチョ村と同じミチョアカン州にある湖畔の町パスクアロで、オクミーチョからやってきたリブラーダ・エルナンデスさんから数体の悪魔を買った。三つ編みに民族衣装姿のリブラーダさんは、おしゃべり好きなおばさんといった風情だけれど、否。こちらの質問にうなずくか首をふるか、値段を言うかくらいの反応しかない。それに、ちょっぴり変わった雰囲気で、やりとりの間じゅう妙な空気に包まれた気分だった。オクミーチョ村では、現在でもプレペチャ語しか話せない人が多いらしいので、言葉が少ないのも驚くほどのことではないのだが、同じプレペチャ族ながら別の村出身の友人が「オクミーチョは魔女の村だから」と冗談っぽく言っていたことを思い出した。オクミーチョの人々に共通する不思議な雰囲気と、作品の強烈な印象に、それもまんざら嘘ではないかも、などと考える。しかし、コロンと転がって割れてしまった悪魔の足を、衆人凝視のなか、大きな大きなボンドのチューブをさっと荷袋から取り出して手際よくくっつける様子を目にすると、どうやら魔法はつかえないらしいことは確実。とはいっても、この悪魔の人形は魔女がつくったと信じてみるのも、なんだか特別ないわくがあるようですてきだ。