LABRAVA

メキシコノート 0020

コロニアル都市の夜景

Queretaro, Queretaro, Mexico, 2007

メキシコには、スペインの植民地だった時代につくられた、石造りの重厚な建物に石畳、それに広場とカトリックの教会堂があるヨーロッパ風のコロニアル都市がたくさんある。ヨーロッパ的でありながら、メキシコ独特の香りが漂うような美しさで、メキシコシティ、グァナファト、サカテカス、ケレタロ、モレーリア、プエブラ、オアハカは、その街並み自体が世界遺産に登録されているほどだ。どの街もコロニアル・テイストは共通するものの、それぞれの街にそれぞれの美しさがある。色とりどりの家が並ぶグァナファトは、まるでおとぎ話に出てくるようなかわいらしい雰囲気だ。建物がピンク色がかった石でつくられているサカテカスは、ほんのりとあたたかい印象。これらの街は世界遺産に登録されるのも当然と思わせる美しさだけれど、そのほかにもきれいな街は多い。こぢんまりとしたタスコの街の赤茶色の屋根と白壁の家々が山の斜面に並んでいる様子は、下から見上げてもちょっと高いところから見下ろしても絵になる。サン・ミゲール・デ・アジェンデの石造りの街並みには小洒落た趣がある。そんな街々は夜になるとほのかな明かりが灯って、昼間とはちがった表情で楽しませてくれる。これもほんとうに美しい。世界遺産に登録されているケレタロの夜は、街灯で辺りが黄色く染まり、道行く者をあたたかく包んでくれるようだ。てっぺんの十字架が青く光るサンフランシスコ寺院のブロックをひと周りする間も、ほの明かりの景色が心地よく自然と顔がほころぶ。

機上から眺める都市の夜景もまた美しく、メキシコシティへ北から向かう便に乗ると、到着するまでの1時間ほどは夢のような光景を堪能できる。真っ暗な山々の間から突然、まるで電飾を丹念に飾りつけたかのように都市が次々にあらわれ、あちら側の街あかりをああ、きれいと思っていると、こちら側からも漆黒のなかからオレンジ色の街が見えてくる。瞬きもできないほどだ。圧巻は、メキシコシティである。無数の宝石がばらまかれたような、はてしないクリスマスのイルミネーションのようなキラキラの盆地、そこからはいく筋も光の河がすうっと流れ出ているよう。それがとてつもなく広い範囲に及んでいるのだ。何度見ても美しさと大きさに息をのむ。

あるときその機上で、初めてそのイルミネーションを見た同行の者が、隣に座ったテンガロンハットに口ひげ、カウボーイブーツと柄シャツ、それにゴールドのネックレスでビシッとキメた男性に、「メキシコシティはとてもきれいですね」と感激して話しかけた。すると、アメリカでの出稼ぎから十数年ぶりに帰国するというその男性は「この夜景はほんとうに誇らしい。けれどこの美しさとは対照的に、この下には政治をはじめ、汚いものがたくさんあるんだ」という。久々に帰る自国のことをそう評価する真摯なことばに感服しながらも、たしかにそうなのかもしれないけれど、それでもメキシコには、機上から見る夜景のような「美しさ」のほうがずっとたくさんあるはず、と思った。