LABRAVA

メキシコノート 0007

パンテロー村のロシータさん

原始機で機を織るチアパス州パンテロー村のマヤ女性
San Cristobal de Las Casas, Chiapas, Mexico, 2001

メキシコのいちばん南のチアパス州には、マヤ系先住民が多く暮らす。旧州都サン・クリストバル・デ・ラス・カサス周辺のツォツィル族やツェルタル族などの先住民の村々では、人々がふだんから民族衣装を着て生活している。いつも民族衣装を着ていなければならない、と思っているかどうかはわからないが、そんなに意識しているふうにも見えない。ほんとうに民族衣装姿が自然な印象なのだ。ところで、もっと南に下ったボリビアではこんな話が。2007年のアイマラ族美女コンテストの優勝者のおさげが付け毛だったということで、優勝が取り消されたらしい。おさげは民族衣装とともにたいせつな伝統とされているのだそうだ。そのうえ、以前にも優勝者が「ふだんは民族衣装を着ていない」と発言して問題になったとか。サン・クリストバル・デ・ラス・カサス周辺の先住民たちの美女コンテストがあったなら、こんな問題はおこりそうもない。

サン・クリストバル・デ・ラス・カサス周辺に住む先住民たちの着ている民族衣装は、村ごとにデザインが異なっている。かたちはほとんど同じだが、模様が多彩だ。そしてどれもカラフル。その衣装を身にまとった彼らがものを売ったり買ったりするために、サン・クリストバル・デ・ラス・カサスに集まってくるので、町中はいつも色とりどりの衣装でいっぱいになる。シナカンタン村からやってきた男性は赤の地に花の刺しゅうを施した衣装を身につけ、チャムラ村の女性は水色や白のサテンの生地にリボンを縫いつけたかわいらしいブラウス姿、白地に赤系のみごとな色彩の模様を施した衣装を着ているのはサン・アンドレス・ララインサル村からやってきた人々。あまり大きな建物もなくしっとりと静かな街並みには、このカラフルな人々がよく似合う。山岳部では、今でも先住民の権利のためにサパティスタ民族解放軍が、武装行動は停止しているものの闘い続けているわけで、それを思えば先住民の歴史や生活のつらい一面を感じずにはいられないのだが、この町中でカラフルな人々が穏やかに道行く様子を見ていると、あまりに美しく、そして力強くて、一時の同情などするなと言われているような気がしてくる。

このきれいな民族衣装は、女性たちが後帯機で織っている。端を木などにくくりつけて、もう一方は帯状のものを腰に巻きつけて織る。そんな構造から、織る布は肩幅くらいのものがほとんどである。ツォツィル族の村パンテローのロシータさんも、やはり後帯機を使って民族衣装を織る。着ている衣装も、織っている布もパンテロー村独特のたて縞のカラフルなもの。ところどころに入っている小さな模様は、刺しゅうのように見えるけれどそうではない。織りながら色糸を入れていく縫取織という織りの技法である。たいへんな作業だけれど、その労力もいとわずきれいな布を織っていく。ロシータさんの黙々と動く褐色の手とできあがる色鮮やかな布のコントラストが美しい。なるほど、この衣装が彼女たちの肌の色に合うわけだ。

そして民族衣装をまとう彼女たちの伝統的な髪型は、ボリビアのアイマラ族と同じようにおさげである。リボンをいっしょに編み込んだりしたきれいな黒髪のおさげも、とことん真っ白になった白髪のおさげも美しい。ところが、ロシータさんはおさげではない。ポニーテールである。長い黒髪にはちがいないのだが、ロシータさんのようにおさげにしていない人もよく見かける。これも時代の流れなのだろう、ここだけ時間を止めておくとか止まってほしいと願うとか、そんなことを考えてはいけないのだ。おさげではなくても、黒髪のポニーテールも民族衣装によく似合う。彼女たちは、きっと自分たちの衣装にどんな髪型が似合うのかをよく知っているにちがいない。ボリビアのアイマラ族の美女コンテストも、おさげの付け毛ではなくて自前のポニーテールなら優勝を取り消されたりしなかったと思う。